山梨県の長崎幸太郎知事は、今年6月議会の補正予算に富士山登山鉄道構想の検討費を6200万円計上し、9月議会には880万円を追加。いずれも日本共産党県議団(名取泰、菅野幹子両県議)以外の賛成で可決されました。知事は、県の広報誌や海外メディアでの会見で登山鉄道の有効性を発信し、推進に向けた県民会議を立ち上げるなど鉄道建設を推し進めようとしています。こうした鉄道ありきの姿勢に反対の声が広がっています。
◇狙いは海外富裕層誘客
登山鉄道構想は、2020年に県の検討会が骨子案を発表。県が管理する富士スバルラインにLRT(次世代型路面電車)の軌道を整備し、緊急車両以外は通行を規制。総事業費1400億円で往復1万円の運賃を想定し年間300万人の利用を見込み、LRTが「最も優位性が高い」としています。
長崎知事は「登山鉄道で環境問題も入山規制も一挙に解決できる」と述べていますが、地元からは、大きなカーブを曲がるための拡幅工事、車両基地、駅舎建設など「鉄道敷設そのものが環境破壊につながる」と懸念の声があがっています。そもそも標高が高く、急こう配が連続する軌道をLRTが運行できるか技術的な問題も指摘されています。
長崎知事は、内外情勢調査会の講演で「登山鉄道でよりハイグレードな付加価値をつけることができないか。運賃が1万から2万円、ゆったりと景色を楽しんでもらう。5合目で500円、600円のお土産を売るのはもったいない。5万円、6万円のものが売れてもいいのではないか」と海外富裕層の誘客の狙いをあけすけに語っています。
◇電気バスこそ現実的
共産党は、富裕層呼び込みの登山鉄道に反対し、環境保全のためにも電気バスの運用を繰り返し求めてきました。6月議会での菅野県議の質問に、長崎知事は電気バス運行のオペレーション、ブレーキなどの技術面、運行規制に関する法律上の問題などをあげ「バスは多数の車両のオペレーションに問題があり、非現実的。指摘は的外れ」と答弁しました。
党県議団は現地調査と関係者からの聞き取りを行い、9月議会で名取県議が電気バスの運行の可能性を追求しました。
名取氏は、県が2019年の夏場の5合目入込者数を元に試算したバスの必要台数65台が定員40人を想定していることについて、実際に運行している電気バスが56人乗りと77人乗りであることを示し、33~47台になると指摘。さらに「構想」が仮設定した1時間当たりの来訪者数1200人に当てはめれば15~21台となり「運行は可能だ」と迫りました。
県は「現実的な数字」と認め、この指摘は地元紙でも取り上げられました。電動でない観光バスが規制できないとする県の立場についても、すでにマイカー規制を行っていること、道路交通法4条の規定から交通の規制ができる根拠を示し追及しました。
◇地元市長も怒り
地元富士吉田市の堀内茂市長は「県は外堀を固め、登山鉄道ありきの世論を醸成しようとしている。『県の提案を地元は聞くべきだ』という傲慢(ごうまん)な姿勢だ」と怒りをあらわにしています。9月の富士吉田市議会で共産党の秋山晃一議員の質問に堀内市長は「世界文化遺産として普遍的な価値を守り、次世代に継承することが私たちの責務。開発行為は到底受け入れられない」と強調しました。市議会も「構想」に反対する決議を可決しました。
名取氏は「富士山が活火山で不安定な表層に覆われていることによる落石や雪崩の危険、小石や落ち葉の堆積で運行不能に陥る可能性などがあり、鉄道は不可能との指摘がある。過大な事業費を費やし、これ以上富士山を傷つける登山構想は撤回すべきだ」と語りました。
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