昨年12月に山梨県の「子どもの貧困を考える会」が甲府市内で開いた学習会で、高橋英児さん(山梨大学教育学部准教授)が「子どもの貧困問題を考える」というテーマで講演しました。その要旨を紹介します。

私は子どもの生活指導の研究に取り組んでいるのですが、近年、子どもの生活の現実に貧困の問題が根深くあり、この問題に取り組むことの重要性を痛感しています。
2000年代の自民党・小泉改革からワーキングプアなど「おとなの貧困」が社会的な問題になり、次いで「子どもの貧困」が注目されるようになりました。なかなか実態は見えづらいですが、けがや病気でも、家庭が貧困状態にあるために病院に行けない子どもたちが学校の保健室に多くやってくるなど、学校は貧困問題を一番発見しやすい場所でもあります。子どもの貧困を早期に発見し、支援していく上で学校は大切な場所なのです。
家庭の経済状況は子どもの学力や意欲に影響します。塾やクラブに通えない、進学できない…。子どもは多くの人と出会い、自分の可能性を伸ばすさまざまな機会を奪われ、「がんばってもどうせダメだ」と自分自身を信じられなくなっていく。貧困の広がりが、安心して生きるための最低限の生活の基盤を奪うだけでなく、現在と未来に対する希望を自ら放棄させるような状況が生まれています。
日本は生活保護制度の利用率・補足率が他の先進国と比べて低く、政府の貧困対策は不十分にもかかわらず、生活保護受給者に対して偏見に基づいて攻撃する「生活保護バッシング」が繰り返されており、「貧困は自己責任」という見方が根強いと感じます。
一方でこの間、「子ども食堂」や貧困家庭を対象にした学習支援が広がるなど、貧困問題を「見過ごせないこと」と一人ひとりの市民が立ち上がり、行政とも関わりながら全国各地にさまざまなネットワークも生まれています。
「子どもの貧困」支援で大切なのは、議会や行政への請願などを通して(子どもの医療費助成などの)制度を変える取り組みなどの物質的・経済的困窮への支援だけではありません。地域で子どもの育ちを支えあう拠点をつくることです。貧困のために傷つけられてきた子どもたちにとって「ありのままの自分を受け入れてくれる居場所」、そして、子どもが本来持っている力を取り戻し、「こうなりたい」という「未来の自分」を夢見ながら成長していける場所が必要なのです。そのような場所は、子どもと大人が関わり合いながらともに育っていくかけがえのない場所にもなるでしょう。
地域で貧困問題に心を痛め、何とかしたいと思っている人たちがゆるやかにつながりながら、豊かに活動を発展させていくことが大切です。
高橋英児さん、プロフィール。山梨大学教育学部准教授。1971年生まれ。専門は教育方法学。
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